自戦記第6局目    (掲載、平成28年6月28日・火

 

 

第29回アマ竜王戦栃木県予選

 主催 読売新聞社、日本将棋連盟

 主管 日本将棋連盟栃木竜王会支部

 

 

2016(平成28)年5月15日(日)

大宮地区センター(栃木市)

  

持ち時間各30分、切れ負け(秒読みは無し)

 

決勝トーナメント準々決勝

(先)五段 門屋 良和

   四段 速水 秀馬(宇都宮市中2)

 

 

  速水君は本年、6月12日(日)に行われたアマ名人戦県予選で初優勝し、本大会史上最年少優勝者となり話題となった。

 また、6月26日(日)に行われた中学生選抜戦県予選においても優勝し2連覇を達成。

 いずれも全国大会(山形県天童市)は、8月上旬に中学選抜、9月上旬にアマ名人戦へ出場となる。

 

 本局は1ヵ月ほど前のアマ竜王戦県予選、決勝トーナメント準々決勝で、速水君と顔を合わせた。

 その一局を振り返りたい。

 

 

 

 

 

 

初手からの指し手(読み方、横へ読んでいく)

▲7六歩  △3四歩  ▲6六歩  △3五歩  

▲5六歩              (1図)

 先手は私の手番となった、▲6六歩と角道を止めて、

速水君は△3五歩で石田流三間飛車の意向。

 

 ▲5六歩(1図)は早い気もするが、▲5六歩を突かず▲4八銀は、△3二飛▲6八玉の時△3六歩▲同歩

△5五角▲3七銀△3六飛▲3八金△6六飛(A図)

面倒な変化が生じる。

 このような将棋は普段から研究していないと、本番では

いざどう受けて良いのか、とっさに対応できない。

 

 すなわち、▲5六歩は早々に△5五角を消した一手である。

 

 

 

 

1図以下の指し手

      △3二飛  ▲4八銀  △6二玉  

▲6八玉  △7二玉  ▲7八玉  △8二玉  

▲5八金右 △4二銀  ▲9六歩  △9二香

                    (2図)

 △3二飛と振って△4二銀、この銀をどう活用してくるかがポイントである。

 飛車の位置が決まって玉の移動、▲9六歩の端歩突きに

△9二香(2図)で穴熊へ。

 

 自戦記第5局目に続いて、石田流三間飛車穴熊となった。どうやら若手たちの間で流行しているようである。

 

 

 

2図以下の指し手

▲7七角  △9一玉  ▲8八玉  △8二銀  

▲7八銀  △5二金左 ▲6七金  △6四歩  

▲8六歩  △7一金  ▲8七銀  △1四歩  

▲1六歩  △4四歩  ▲7八金   (3図)

 

                    

 

 私の囲いは▲7七角から左美濃~銀冠の構えをとった。

このあたりは淡々と指していたように思う。

 持ち時間は秒読みなしの30分だから、長考はできない。時間が切れれば負けの条件

 比較的指し慣れた陣形をとった。

 

 速水君の△6四歩は、▲6五歩の位を取らせない方針と、△6三金型の穴熊囲いかなと思った。銀冠に対しては有力な作戦でもある。

 

 

 

 

 

3図以下の指し手

      △6二金寄 ▲8五歩  △7四歩  

▲8六角  △7三金  ▲7七桂  △3四飛 

▲9五歩  △4五歩  ▲9八玉   (4図)

 

 ▲8五歩の位を取って▲8六角、速水君は△7三金と

上がって守る。

 続いて▲9五歩の位も取って、▲9八玉と角のラインから避ける。状況に応じて▲6五歩△同歩▲同桂の狙い。

 

 私が飛車先の歩を突かないのは、陣形を整えるのを優先しているからであって、最近の対振り飛車においてはかえって逆用される筋があるので、急ぐ必要はないと思った。

 

 さて、△3四飛と浮いてはいるが、ポイントは4二銀の動き、角の動き、桂(3三へ)の動き、いろいろ組み合わせがあるのだろうと思う。

 

 

 

 

 

4図以下の指し手

      △4三銀  ▲2六歩  △3三桂  

▲2五歩  △3一角  ▲2六飛  △5四銀  

▲5七銀  △6三銀        (5図) 

 

 速水君△4三銀~△5四銀と上がり、▲2六歩に

△3三桂、▲2五歩に△3一角と引く。

 

 △3一角で△1三角は、▲6五歩△同歩▲5三角成を

警戒した。

 

 私の方は▲2六飛から▲5七銀でまずまずの陣形と思う。

 

 △6三銀(5図)で4枚穴熊へ、軽く捌いて堅さで勝負ということだろう

 

 

 ここで、私は少し動いてみた。

 

 

 

 

 

5図以下の指し手

▲5五歩  △5四歩  ▲同 歩  △同 銀  

▲5二歩  △6一金  ▲6五歩  △5二金  

▲6四歩  △7五歩         (6図)

 ▲5五歩に△5四歩で駒がぶつかる。△5四歩で

△7二銀は▲5六銀から▲6五歩と攻める予定だった。

 

 ▲5四同歩に△同銀で△同飛も考えられるが、▲5六飛とぶつけ△同飛なら▲同銀△5九飛(※△5五歩の狙い)▲4一飛△5三角(※△1三角は▲1一飛成)▲6五桂(B図)で決まる。

 

 こう上手くいくとは思えないが、飛車交換は角が捌けない振り飛車にリスクがある。

 

 

 したがって、△5四同銀と応じるが、▲5二歩と垂らす。穴熊に対しては「と金」攻めが有効。

 

 △6一金と防いで▲6五歩、もちろん△同歩は

▲3一角成で角が取れる。

 

 △5二金と歩を払って▲6四歩、これも△同金は

▲6五歩で先手良し。

 また、△同角は▲同角△同金で、▲4一角(C図)から

▲2三角成か、または▲8四歩△同歩(※△7二銀もある)▲8三歩△7三銀(※△同銀は△6一角)と決めて

から▲4一角もある。

 

 

 そこで本譜△7五歩(6図)が手筋となる。

 

 

 

 

 

6図以下の指し手

▲6五同歩  △6四金  ▲7六金  △6二金  ▲6六銀               (7図)

 △7五歩(6図)に▲同角は△6四金で角あたりになる。「大駒は近づけて受けよ」である。

 

 ▲7五同歩と応じ△6四金▲7六金と厚みを作る。

 穴熊の陣形を結構乱したつもりだが、まだ勝負は長い。

 

 △6二金に▲6六銀(7図)と上がったが、迷った一手でもあった。

 

 

 

 

7図以下の指し手

      △6五歩  ▲同 桂  △7四歩  

▲同 歩  △7五歩         (8図)

 

 ▲6六銀(7図)では、▲6五歩△6三金引▲6六銀

(D図)を考えた、徹底した押さえ込みであるが、このときその後の展開が良く分からなかった。

 D図から▲5六飛~▲5五銀の交換にもっていくのもあろうし、▲5五歩△4三銀も考えられた。

 

 

 含みを持たせて、本譜は単に▲6六銀と上がった。

しかし、△6五歩▲同桂とさせられて△7四歩から

△7五歩と捌きを図ってきた。

 一瞬の隙を見逃さない速水君、強くなった。

 

 

 

 

 

8図以下の指し手

▲5三歩  △7四金  ▲7五金  △同 金  

▲同 角  △6五銀  ▲同 銀  △7四金

                  (9図)

 △7五歩(8図)▲同銀は△6五金と桂を取られていけない。

 いったん▲5三歩と後手の角道を止めた、△7六歩なら

▲6四角で金を取り返す。

 他には、▲7三歩成△同桂▲同桂成△同金と桂交換をしてから▲7五銀もあったかもしれない。

 

 ▲7五同角に△6五銀▲同銀△7四金(9図)、勢いを増してくる。

 

 

 

 

 

9図以下の指し手

▲6三歩  △6一金  ▲6二金  △7五金  

▲6一金  △6五金  ▲6二歩成 △5三角  

▲7二銀              (10図)

 

 △7四金(9図)▲6三歩と金取りに打った、△同金

なら▲7二銀と絡む。

 他には、△7四金(9図)に▲同銀△同飛▲6五金

(E図)どうか、△7五飛▲同金△5三角▲6四歩

△7七歩▲同金△4四角▲5五歩△同角▲6六銀△6八銀

▲7八金打(F図)で当面受けを余儀なくされるが、これも今振り返ればあったようだ。

 

 

 本譜、▲6三歩に△6一金▲6二金に△7五金で駒の取り合いとなった。

 ▲6二歩成△5三角に▲7二銀は詰めろ、▲8一銀成

△同玉▲7三桂(G図)△同銀▲7一金以下詰む。

 

 しかし、ここで詰めろ逃れの詰めろがある。

 速水君の手付きがしなった。

 

 

 

 

 

 

10図以下の指し手

△7四飛            (11図)

 △7四飛(11図)盤上この一手

 ひとつは、▲8一銀成△同玉▲7三桂(△同飛)からの詰みを消す。もうひとつ、△7八飛成▲同銀△9七金

▲8九玉△8八銀の詰めろ。

 詰めろ逃れの詰めろ、になっているわけだ。

 

 ここで、どう受けるべきか。

 

 

 

 

11図以下の指し手

▲7五歩  △同 角  ▲8六金  △同 角  

▲同 飛  △7九角         (12図)

 

 11図から▲7五歩と焦点に歩を打つ、△同飛なら

▲7六歩と飛車道を止める、2六飛が辛うじて横に効いている。

 本譜、△同角に▲8六金で角道を止めた。速水君も逃げてはいられない、▲7一とと迫る手があるから。

 

 △8六同角に▲同飛△7九角(12図)の詰めろ。

 さて、残り時間は速水君2分切っていたように思う、私の方は少し余裕があったので対局時計(デジタル)を確認していた。

 

 

 

 

 

12図以下の指し手

▲7九同金  △同飛成  ▲8八角  △同 竜  ▲同 玉   △7六桂  ▲同 飛  △5五角  

▲6六歩               (投了図)

 まで、103手で門屋五段の勝ち

 △7九角(12図)は△9七銀からの詰めろであるが、

▲同金と応じて差支えない。

 △同飛成に▲8八角と弾いて凌いだ。△8九銀なら

▲9七玉△8八竜▲同玉で大丈夫。

 

 本譜、△8八同竜▲同玉△7六桂に▲同飛と応じ、

△5五角に▲6六歩(投了図)で終局となった。

 先手玉に詰みはなく、後手玉は▲8一銀成△同玉

▲7二角以下の詰みが生じている。

 

 それにしても、中盤において一時は押さえ込んだつもりでいたが、一手争いになるとはまったく想像しなかった。

 最後は指運もあった。

 

 速水君の捌き、繰り返しになるが上手かった、参考になったのではないかと思う。

 

 冒頭でお伝えしたとおり、速水君は今月(6月)アマ

名人戦、中学生選抜戦各県予選で優勝し、8,9月と全国大会を控えている。

 一層の活躍期待している。

 

 最後までご覧いただきまして、誠にありがとうございました。                 (門屋)